ニート・不登校・ひきこもり Next Vision Forum その後

teraiman2006-06-05

資料作成が終わらず、出演が最後なのをいいことに会場内でも資料作成をつづけるという失礼極まる行動に出たりもしたんですけど、なんにせよお話させていただきました。
会場の皆さんが疲労困憊って感じの状態で話した割には、かつ好き放題に話した割には、さらにはタイムテーブルが押し押しということもあり早口で喋り倒した割には、「良かったよ」ってな感想をいただけて嬉しかった。僕のいまの問題意識をそのまま吐き出させてもらったんで、すごくやり甲斐がありました。
ちなみにイベント終了後の打ち上げでは赤ワインを散々いただき、家に帰った後の記憶があんまりありません。即、寝たと思われ。せっかくなんで、日曜にお話しさせていただいた内容を改めてココに上げておきます。早口で聞き取れなかった、という方には役に立つかも。(一部、言葉足らずだった部分とか加筆させてもらいました。あと文中のカッコ内の人名は、他の講演者の発言と絡めたところです)


はじめに。自己紹介を兼ねて

  • 若者支援のNPOをやっているけれど、ニート不登校・ひきこもり・フリーター(以下、「ニート〜」)に対する支援をやってるつもりはない。結果的にはフリーター支援ぐらいにはなってるかもだけど
  • ニートという言葉が一人歩きして、もはや何のことか分からないという話があった(by常野)。同感。話をしていても定義の確認からやらなきゃいけないから面倒だ
  • どちらにせよ「ニート〜」問題については当事者でないし、専門家でもないし分からない。ただまあそれなりに人間関係だったり病気だったり辛い思いをした経験はあって、勝手なシンパシーみたいなのを感じるところはある
  • そのときの経験からして、個人の苦しみとか悲しみは本人しか分からないと思う。僕自身、「君の苦しみわかるよ」とかいう奴は蹴っ飛ばしてやりたかった。一方で、相手の苦しみをささやかに想像する、ってことが大切なのかなと思ってる
  • ので、僕は会場にいるかもしれない「ニート〜」の人たちの苦しみなんて分からないし、同情もしないし、救いません。救うとかは自分自身でやってよ。僕はただ、みんなのことを想像はしてみるし、仲良くできたらいいなあとは思う
  • まあそういうわけで、どっちにせよ「ニート〜」のことはわからないので、好きに言いたいこと言わせてもらいます。誤った情報、妄想がたくさんあるかも。ごめんね


ニート〜」はなぜ悪いのか?

  • そもそも、悪くないんじゃないか。ただし困る人というのが居て、親だったり、国というか政府だったり、本人が辛いなら本人もそうかも
  • 親に迷惑かけるのは悪いなあと思うなら、どういうカタチでも経済的に自立できたほうが良いよね。それが結果的に、「ニート〜」でなくなるということにつながる気がする
  • 関連で、僕個人もこの4年ぐらい、自分自身が「死なない仕組み」をつくってきて、だからある程度リスクもとって活動できてる。「死なない仕組み」は重要だと思う


NPO法人KOMPOSITIONの紹介

  • 割愛


ニート・ひきこもり・不登校、そしてフリーターについて

  • 僕自身が団体の代表ということもあり、20代の割には行政関係者や議員や地域団体の幹部、つまり上の世代の権威みたいな方と話すことが多い(はず)
  • そういう方と話すと、「ニート〜」問題に対する認識のズレに驚くことがある。例えば某行政幹部と1時間も話したとき、幹部氏は「若者がなぜ働きたくないのかわからない」「若者にマトモになってほしい」と言い続けていた。でも僕は「若者が働きたくない」ことがわからない彼が、わからなかった
  • そういう席でしばしば聞かされる見解というのは、「ニート〜」は特殊な事例であり、病気みたいなもんで、可哀想で、だからこそ大問題だ、というもの
  • そしてそれが、世間一般でよく言われる「ニート〜」に対する言説かなあと感じている
  • 図にすると、上が活発、下にいくほど無気力っていう次元があって、逆三角形に若者が存在してる。三角形の真ん中に「越えられない壁」という線引きがあって、その上には多数の「健全な若者」がおり、下にはできそこないの「ニート〜」がいる
  • 要するに、「ニート〜」というのはオーバーに言えば人間として不良品だっていう理解


ニート・ひきこもり・不登校、そしてフリーターについて2

  • しかし実際のところ、たまたまニートになったり、たまたまひきこもったり、たまたま不登校になったり、たまたまフリーターになったり、たまたま会社員になった、現状ではその程度の差であることが多いのではないか
  • 僕は、上記した逆三角の見解というのは間違っていると思う。越えられない壁はなく、多くの若い世代はふとしたキッカケで「ニート〜」になりうる。健全な若者と、「ニート〜」には上下関係みたいな優劣もない。さらに無気力というのは結果であって、対立軸はまた別にある
  • それを図にすると、社会やら人生やらとにかく「疑問」という軸があって、左が疑問をもたない、右が疑問を抱える、という次元ができている。若者は正規曲線に近く分布していて、極端な人は少ない。真ん中よりいくらか右に寄ったところに「たまたま働いている」という線引きがあって、その左側に「健全な若者」、右側に「ニート〜」が位置している
  • この図の注目すべきところ。両者には優劣関係はなくて、両者を隔てている境界線はすごく緩くて簡単に右にいったり左にいったりできる。「疑問」を感じる度合いが大きいと「ニート〜」になる傾向が高いが、そもそもたまたま働いている若者もかなりの割合が「疑問」寄りで「ニート〜」予備軍といえる
  • ついでにいうと、この図の「ニート〜」と同じ場所に、起業家という連中もいる。ホリエモンとか「ニート〜」すぐ側に位置してたんじゃないかと思う。さっきホリエモンの話が出た(by雨宮)。大金を稼いでいる起業家はサラリーマン以上に縁遠いという認識みたいなのもありそうだが、むしろ「ニート〜」と起業家はすごく近い存在じゃないか
  • で、僕は「ニート〜」は若い世代全般にまつわる一般的な事例で、全員が当事者といってもよく、病気でもなければ可哀想でもないが、だからこそ重大な事態で大問題だと思う


とりあえずの結論

  • ニート〜」が問題だとして、以上のような認識の誤りを是正しないと解決なんてムリ。前提がずれてたら正解は導けない。この認識違いを上の世代にも伝えて納得してもらわないと始まらない
  • さて、しかしなぜ若者と上の世代の御大とで、ここまで認識がズレてしまったのか、その理由を知るべき。そうすれば傾向と対策も見えてくるかも


世代とはなにか、なぜ違いが生まれるか

  • 粗い理屈なんだけど(世代って発想がそもそも粗い)、、2つほどよく知られた社会心理学などの仮説を組み合わせて、世代がどう生まれて、それぞれの世代がどういう特徴があるのか探ってみたい
  • 1つ目は社会化仮説。人の基礎的な価値観というのは8〜23歳の生活環境によってあらかた固まるというもの
  • 例えば1945年の終戦をキーに考えると、45年時の23歳以上=戦争状態で社会化した者と、45年時の8歳以下=和平状態で社会化した者とで大きく感覚が違うはず。ちなみに前者は今の84歳以上、後者は69歳以下。実際はどうだろう?
  • 2つ目は欠乏仮説。人は満たされたものは求めなくなり、今だ満たされていないものを求めるようになるというもの
  • 有名なマズローの5段階欲求説になぞらえることが多い。心身の安全からはじまり、衣食住、仲間とのつながり、周囲から尊敬されたり愛されたりする感覚、自己実現に至る。社会が成熟すると、物質的なもの(モノ)から精神的なもの(ココロ)へ、人が求めるものが移り変わっていくという理屈
  • すごく簡単にいえば、飲まず食わずの貧困国に生まれた若者は自己実現なんてものより自分が生き残ることを求める。一方、逆に豊かな国に生まれた若者は長寿なんて当たり前、自己実現とかそういうことを求めるようになる


世代とはなにか、なぜ違いが生まれるか2

  • で、2つの仮説を組み合わせると、日本社会が成熟して変化するにつれて生活環境も激変し、そこで育った人々の価値観も大きく移り変わっているはずだ。さてキーになりそうな契機を洗い出すと、以下が挙げられるかと思われる
  • 1945年 終戦
  • 1955年 戦後復興
  • 1965年 高度経済成長
  • 1985年 バブル到来
  • 1991年 バブル崩壊
  • それらのキーが世代を区分していると考えると、以下のような世代の区分ができるんじゃないか
  • 65歳以上 高度成長前に社会化 モノ重視・集団行動 「ハングリー世代」
  • 49歳以上 高度成長後に社会化 モノ重視・集団行動 「働き蟻軍団」
  • 39歳以上 バブル崩壊前に社会化 モノ重視・個人行動 「バブル脳の自信家」
  • 24歳以上 バブル突入後に社会化 ココロ重視・個人行動 「生殺しの世代」
  • 23歳以下 バブル崩壊後に社会化 ココロ重視・個人行動 「絶望世代」
  • 個人的な経験則では、あんまり大きく外した覚えはない。日本が短い間に一気に経済成長したからここまで世代の差ができてしまったんだろう。39歳あたりで一つ大きな断絶があるとは思う
  • 自分なんかは「生殺し世代」で、上と下に挟まれている感じがする。ともかく各世代の感覚や価値観はかなり相違がある実感がある、それを踏まえておくと上の世代の前提がなんとなくわかって、なぜそういうことを言うのかわかる。ちなみに前述の行政幹部の方は現在、50代後半
  • こういう一定の理屈のもとに、世代の差ができていることを老いも若きも分かりあわないと、いつまでたっても話がすれ違う。この啓蒙を早くやらないとマズい
  • と、まあこの議論は参考までにという感じだが。個人的にはこういう理解でいるので、年が離れた人と話すときは翻訳でもするつもりで話すように心がけている


ニート〜」問題の解決策

  • とりあえずミクロなことと、マクロなことがあると思う
  • ミクロなことというのは、つまり個々人向けの対処療法。これは自立塾とか、政府関連も含めてそれなりにやってるから試行錯誤をつづければいいのでは。ただしどこまでいっても、苦しみの大きい数%の人たちに向けた対処療法なので、本質的には問題は解決しないんじゃないか
  • ニート〜」について語られるとき、どちらかといえばミクロなことが語られることが多いはず。もちろんすごく深いあれこれがあると思うのだけど、僕のほうはそこはスミマセンって感じで、特に今日はなにもないです
  • マクロなことっていうのは散々、語ったこと。以下、いくつか
  • 基本的には若い世代からはじまる啓蒙というか、社会変革というか、それが大切。上の世代は若年層の感覚をつくづく理解できてないし、そもそも理解できてないことを気づいてる人も少ない。理論立てながら、無理解の度合いと、別ものの人間群だってことを説明しなきゃいけない
  • ニート〜」問題について社会環境に目を向けるべきというのは同意だが、雇用環境を重視しすぎるべきではない。心の底から働きたいのに働き口がなくて悩んでいる若者より、心の底から働きたいと思えずに悩んでいる若者のほうが多いのではないか。求人が回復したとしても、本質的な問題は解決されないと思っている
  • これから冗談ではなく、若者の政治的弱者化が進むと思う。少子化が進むこと、地縁血縁学閥ふくめた集団の原理が薄れ続けること、ついでに政治不信による投票率の低迷、そういう原因から考えるに、若い世代は政治的にどうやっても弱くなる。いよいよ生き辛い世の中になりかねない。結局のところ、困る層、つまり若者からなんらかのアクションを起こす以外にない(by後藤)
  • 僕の図で出てきたが、「ニート〜」が「疑問をもつ」ことと近いと仮定するなら、「ニート〜」の将来は無理に就職することなんかではなくて、なんらかのクリエイティブと関わる個人業者になることにあるかもしれない。疑問をもつこととクリエイティブは、非常に近いからだ。文章やマンガを書くとか、絵やデザインや音楽に没頭するとか、ダンスとか含めたスポーツなんかにも可能性があるかも


最後に

  • 自分が昔、政治関係ですごく尊敬していた、カッコいいなあと思っていた人がいた。枠をぶっ壊しながら表現しているようなエネルギーを感じた。親しくなってから、彼がいろんなコンプレックスに悩んで生きていると教えられ、「太陽と月」の話を聞かされた
  • それは、成功してる奴には2種類いて、成功体験を積み重ねまくって自信に溢れていてそれがエネルギーの源泉になってる太陽みたいな奴と、辛い思いやコンプレックスを重ねまくっててそこから逆ギレというのかエネルギーを生んでる月みたいな奴がいる、という話
  • 僕はその人に「俺は月だよ」と言われて、自分も考えてみると思いっきり「月」だった。先ほど「ニート〜」の人たちは生き辛い、だけどその生き辛さを大切にしてほしいという話(by貴戸)があったが、その生き辛さが「月」のエネルギーに変わることがあるんじゃないかなと思う、ぜひみんな元気でやってください


ちなみに世代がどうこうというくだりは、大学院時代の付け焼き刃な知識で語ってるだけです。イングルハートの議論に自分のアイデアをくっつけた感じ。研究者の方からすれば、今じゃすっかり相手にされない議論なのかもしれません。

とまあ……書いてて疲れました。しかし、昨日はこれをやたら早口に15分強でお話させてもらったと、まあそういうわけです。みなさまご清聴ありがとうございましたw